役員報酬に対する社会保険料の負担割合

一人会社のオーナー社長で協会けんぽの社会保険に加入した場合、健康保険料(介護保険該当)と厚生年金保険料で役員報酬の「約3割」程度の負担が発生することになります。

これを会社と社長個人で折半するため、会社負担分は「福利厚生費」とはなりますが、そもそもこの福利厚生費は社長個人が稼いだ売上や出資した資本金などが原資になるはずです。そのため、一般的なサラリーマンとは違い、一人会社のオーナー社長の場合は社会保険料負担に対する考え方が少し違ってきます。

サラリーマンの場合は社会保険料を会社が半分負担してくれますが、オーナー社長の場合は会社のお金も結局は自分のお金ですので、名目上は会社との折半であったとしても、実質的には保険料の全額を自分で負担することになります。

社会保険料の負担割合に累進性はない

これを協会けんぽのケースで試算してみると、給与に対する社会保険料の割合は「約29.91%」となりました。そのため、一人会社の社長の場合は実質的に約3割の負担になります。一方、従業員の場合は会社との折半になりますので、半分の「約14.96%」という数字になります。

(※全額:平成28年分 協会けんぽの健康保険料「介護該当」と厚生年金「一般」の合計)

約29%

この数字につきましては地域や年度、あるいは介護保険料負担の有無によって違ってきますので、一度、エクセルなどで実際に確認されてみることをおすすめします。おそらく、来年あたりには「30%」の大台に到達していることでしょう。

負担割合は上記のように一定のため、所得税のような累進性はありません。役員報酬の金額を高く設定しても所得税のように33%、40%と税率が高くなっていくわけではなく、月額4等級以上からはその割合が一定となり、給与の約3割が社会保険料として出て行ていくことになります。

所得税は所得によって税率が上がる累進課税ですが、社会保険料についてはその割合が一定となっている点に違いがあります。

社会保険料から逆算して役員報酬を決める方法

一般的に、社会保険料は役員報酬を決定したのちに負担すべき保険料を計算する人が多いと思います。まずは役員報酬を決め、その結果として払うべき社会保険料が算出されるというものです。

一方で、毎月の社会保険料負担から逆算して役員報酬を決定する考え方もあります。

オーナー社長で会社の経営が厳しくなってきた場合、自分の役員報酬については未払いの状態にも出来ますし、会社にお金を貸し付けた形にしてそこから払うこともできるのである程度は融通が利きます。

けれども、社会保険料については未払いせずに毎月納めなくてはいけません。一旦、滞納が発生してしまうと数か月程度で大きな金額になってしまい、最終的には倒産せざるを得なくなる可能性があります。

そのため、この社会保険料で毎月会社から出ていく金額を確実に確保できるかどうかが重要になってきます。

万一会社の売り上げが落ちた場合でも、最低限、この社会保険料を毎月確実に払える金額かどうかを考え、そこから逆算して自分の役員報酬額を決定するのが確実です。手持ちのお金で社会保険料を何か月分払えるのかについては、よくチェックしておいた方がよいでしょう。

役員報酬は定期同額のため、原則1年程度は変更できませんので、社会保険料についても1年間程度は変更できません。そのため、最低限1年程度の社会保険料は余裕で払っていける金額かどうかを確認しておくことをおすすめします。

オーナー社長は厚生年金保険料の元を取れるか?

一人会社のオーナー社長の厚生年金についてですが、形式的には保険料が会社との折半であったとしても実質的には社長個人の全額負担となります。そのため、厚生年金については保険料を払えば払うほどよいということにならない可能性があります。

例えば、会社との折半になるサラリーマンの場合、仮に年金の受給開始から8年で元が取れたとしても、一人会社の社長の場合は実質的に全額の保険料を負担しているため、元を取るには倍の16年がかかる計算になります。

現在の男性の平均寿命は80歳といわれてますので、年金を65歳から80歳まで15年間もらったとしても、オーナー社長の場合は払い損となってしまう可能性も考えられます。

単純に厚生年金だけを考えた場合、従業員は払った保険料分の元が取れる可能性がかなり高いのに対し、オーナー社長は元を取れる可能性が低いため、払えば払うほど損をしてしまう可能性があります。

もちろん従業員の場合でも、支給開始年齢の引き上げや年金額の減額となった場合には払い損となる可能性はありますし、払った年数や掛け金、あるいは社会保険料の所得控除による所得税などについても総合的に考える必要がありますが、オーナー社長の厚生年金については分が悪いといえそうです。

この点、個人事業主の国民年金基金の場合は「賦課方式」ではなく、「積立方式」となっているため、将来もらえる年金額は確定しています。もし同じ年金額を払うのであれば、個人事業で国民年金基金を払った方がよいのかもしれません。