個人事業で開業しよう

法人成りを考えるべきタイミング

一般的には個人事業より法人の方が税率は高くなりますし、何より厚生年金加入による社会保険料の負担が非常に大きいため、たいていは個人事業のままの方が税金の負担は軽いはずです。

けれども、ある収入レベルを境に個人事業での税率が法人を上回ってしまうため、それを超えるようなら法人成りされることをおすすめします。

法人と個人事業の税率を比較

事業規模にもよりますが、法人の実効税率は以前までは4割程度でしたが、法人税減税により2014年度には約35%となり、2016年度には約29%となりました。また、中小法人の場合、課税所得が800万円以下の部分については15%しかかかりません。

それに対して個人事業の場合、課税所得1,800万円を境に、所得税が40%、住民税が10%、加えて個人事業税などもあるため、所得で1,800万円を超えて稼ぐ分については税率が50%を超えてきます。

累進課税になっている分、所得の低い部分については低い税率が適用されるため、全体の実効税率でいえば50%にはなりませんが、社会保険や消費税なども総合的に考えてシミュレーションをすると法人の方が税金が安く済む境界があります。

その境界を超えるようなら、法人成りを考えるとよいでしょう。

この法人税と個人事業の税率の違いに加え、自分の収入を経費に計上できない個人事業とは違い、法人の場合は自分の役員報酬を経費にできる点で違いがあります。また、この役員報酬についても給与所得控除を受けられる点でメリットが大きいです。

消費税の課税対象売上1,000万円が目安

法人成りのタイミングとしては、消費税の課税対象となる売上高が800万円程度になり、年度内に1,000万円を超えて消費税の課税対象事業者になりそうな場合は法人成りを検討する時期かもしれません。

売上が1,000万円を超えてくると消費税の課税事業者になってしまうため、そこで一旦、個人事業を廃業してしまった方がお得感が出てくるからです。

個人事業と法人では別の扱いになるため、年度の途中で法人成りしても個人事業と法人では売上が通算されず、そこで一旦はリセットされるため、合計で課税売上1,000万円以上になったとしても消費税分を払わなくて済むメリットがあります。

例えば、仮に8月末の時点で個人事業での売上が800万円だったとして、翌月の9月から法人成りしたとします。そして、9月から年末までの法人での売上が400万円だった場合、合計で1,200万円の売上にはなりますが、個人事業と法人ではそれぞれ別に800万円と400万円でカウントされるため、共に1,000万円未満となり、消費税の納税義務はなくなります。

また、その年度については法人の役員報酬での給与所得控除に加え、個人事業の青色申告特別控除も両方が適用されるため、控除額をフルに活用できるメリットがあります。

会社設立の手続きをしている間に1,000万円を超えてしまわないよう、ギリギリではなく、売上800万程度の段階で余裕を持って対応されることをおすすめします。

同族経営の所得分散による法人成りの節税効果

同族経営、あるいは同族会社などと言われていますが、会社の役員を身内の親族で固めている法人はかなり多いです。上場している大企業でも多いですし、中小・零細企業の場合はそのほとんどが同族経営といってもよいでしょう。

この同族経営のメリットですが、社長一人で高額な所得を得るよりも、身内や親族を役員に付け、所得を分散させて役員報酬を支払うことで各人の所得税率が低くなるため、親族単位でみると税金の負担を軽く済ませることができます。

例えば、3,000万円の所得を社長ひとりで取るよりも、妻と長男の役員報酬で300万づつ、兄と母親で300万円づつ、祖母と祖父で300万円づつ、自分と会社に残す分で600万づつといった形で分散させる方が総合的な税率が低くなります。

また、各人にそれぞれ給与所得控除が発生する点でもメリットが多いといえるでしょう。

給与所得控除と基礎控除の部分で誰にでも最低103万円分の控除額があり、これを有効に活用することができるため、この5人分、10人分の人的控除を考えるだけでも法人化のメリットが大きいです。

もちろん、所得を親族で所得を分散する分、自分の収入は低くなりますが、親族単位で考えると税金として出ていくお金が少なくなるため、稼いだお金を親族内に留めることができます。これが同族経営の醍醐味といえます。

ただし、名前ばかりの役員で勤務実態のない場合、税務署から損金への参入を否認されることもあるので注意が必要です。会社のお茶くみ係のような仕事を無職の祖母に割り当てて高額な役員報酬を支払っていたとしても、実際にはまったく出社していなかった場合などは役員報酬の損金算入が否認されるかもしれません。

個人事業でも専従者控除がありますが、家族へ支払う報酬を経費として認めてもらうには何かと制限が多いです。勤務実態とそれに対する役員報酬の妥当性を考え、常識的な範囲内で支給することをおすすめします。

法人成り後の健康保険料は軽減することが可能

法人成り後の健康保険料については、会社の社会保険に加入することになります。

国民健康保険 → 会社の健康保険(協会けんぽなど)

個人事業での国民健康保険については年金生活者や現役ではない無職の方なども加入しているため、慢性的な赤字の状態となっており、少しでも所得があれば負担が重くなる傾向にあります。年収1千万円程度でもあれば、ほぼ間違いなく上限での保険料がかかってくるはずです。

市区町村にもよりますが、上限額の年間65万円は翌年度に最低限はかかってくるため、月になおすと5万円程度の負担になります。(※追記:介護保険も含めた上限額が96万円に引き上げられました。)

一方、法人成りしたあとの役員報酬は自由に決めることができるため、例えば、月20万円程度の役員報酬に設定すれば、協会けんぽでの健康保険料はせいぜい月1万円程度の負担で済みますし、会社負担分を合わせても月2万円程度です。

この20万円というのは極端な例ですが、仮にこの場合は月5万円だった国民健康保険料が、月2万円程度で済むことになります。社会保険に加入しないままでやり過ごす加入逃れの事業所も多いですが、法人成り後ははやめに社会保険に加入されることをおすすめします。

ただし、自分の給与を低く設定すると、その分、会社に残る利益が増えるため、最終的には法人税での負担が大きくなってきます。また、厚生年金への加入や会社負担分なども含めると、一般的には個人事業よりも会社の社会保険の方が負担は大きくなるはずです。

給与設定の仕方によって違ってきますので、総合的に検討されることをおすすめします。

法人成り後の年金負担(厚生年金)は大幅にアップ

上記の健康保険に加え、法人成りをすると国民年金(※第1号被保険者)から厚生年金に切り替えることになり、こちらについても保険料を会社と折半する形になります。

国民年金(第1号被保険者)→ 厚生年金+国民年金(第2号被保険者)

個人事業での国民年金の場合は、基礎年金部分のみの納付でよいため、いくら稼いでも毎月1万6千円程度しかかからない定額制といえます。一方、法人成りした場合は国民年金(第2号被保険者)に加え、年金上乗せ部分の厚生年金も合算して納付することになるため、収入に連動して負担額が増えていきます。

当サイト運営者の場合、法人成り後は所得税や住民税、健康保険料の負担は軽くなりましたが、年金保険料の負担については大幅にアップしました。国民年金の場合、毎月約1万6千円で済んでましたが、厚生年金の場合は会社負担分も含めると毎月10万円以上になることもあります。

一般的なサラリーマンとは違い、事業主の場合は会社負担分も会社オーナーである自分が負担することになるため、社会保険の負担が大きいです。法人成りのネックは、この厚生年金の負担が増大してしまう点にあるのかもしれません。

ただし、所得税や住民税、事業税、健康保険料は単に出ていくだけのお金のため、負担額が小さければ小さいほどよいですが、厚生年金については将来的に年金支給額が増える点で他の税金とは性質が違います。また、厚生年金の負担額が大きければ、それだけ社会保険料控除が大きくなるため、所得控除額が増えることで所得税や住民税の節税にもつながり、必ずしも一概に悪いこととはいえません。

年金機構の「ねんきんネット」では年金額のシミュレーションもできますので、将来もらえる年金額も総合的に考えて法人化を検討されるといでしょう。


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