平成18年の会社法施行で最低資本金制度がなくなり、1円でも会社が設立できるようになりました。以前までは株式会社を設立するのに1千万円が必要でしたが、現在では自由に資本金の金額を決定できるようになっています。
けれども、資本金は本当に「1円」でもよいのでしょうか?
それとも最低でも300万円ぐらいは入れておいた方がよいのでしょうか?
法人を設立する際、資本金の金額を何を根拠に決めればよいのかの疑問が出てくるかと思います。
そもそも資本金とは何かについてですが、株式投資をしている人からみると資本金は「会社の所有権」の意味合いが強いと思います。将来、業績がよくなりそうな会社に出資をして投資し、会社の所有権の1部を保有することで、業績がよくなった際には配当などの分け前をもらうことができます。
株式を発行して資本金を調達することにより、創業者にとっては返済不要の資金を調達できるメリットがある一方、出資額に応じて部外者に会社の所有権を手渡すデメリットがあります。そのため、会社設立の際の資本金の額はいくらというよりも、誰が出資したのかについての支配の割合がより重要な意味を持ってきます。
例えば、100万円の資本金でも、創業者が100%出資したお金ならその会社のオーナーは創業者になるため、将来いくら儲かっても会社の利益は全て自分のものです。
一方、会社設立の際に50万円を自分のお金で、そしてもう50万円を友人に出資してもらい半々で起業した場合、会社の所有権の半分は友人にあることになります。そのため、社長が頑張って会社を大きくしても利益の半分しか自分のものにはなりません。
仮に100万円の資本金ではじめたとして、もし10年後に会社の繰越利益剰余金が10億円になった場合、自分が100%出資していれば、10億円のすべてが自分のものになりますが、友人と半々で出資していた場合は半分の5億円しか残らないことになります。
友人にとってみれば、50万円が5億円になるので万々歳ですが、創業者にとってみれば、面白くない結果になってしまうかもしれません。
そのような意味で、会社を作る際の資本金については、その会社を誰が支配しているのかについての出資割合について慎重に検討されることをおすすめします。一般的には、創業者が100%出資する形が一番ぶなんかと思われます。
資本金の金額については、たとえ1億円の会社であったとしても、そのお金が会社にそのまま残っているとは限りませんので、万年赤字の場合は口座残高が空の状態も考えられます。そのため、資本金の金額自体にはあまり意味がないかもしれません。
ただし、1,000万円を境に消費税の課税事業者になったり、あるいは法人税の面でも課税基準が上がってしまうなど、不必要に資本金の額を大きくするとデメリットが生じるケースもあります。このような事情があるため、あからさまに基準額ギリギリの999万円などの金額で設立される方も多いです。
一方、資本金が10万円などで少なすぎても、都市銀行では法人口座の開設ができなかったり、あるいは定款に資本金の金額が記載されるため、取引先からの信頼度が落ちてしまうデメリットがあります。事業規模にあった、適切な資本金で会社を設立されることをおすすめします。
当サイト運営者の場合は一人会社なのですが、10万円を資本金にし、会社設立費用なども合わせ30万円で法人成りしたのですが、すぐに黒字になったため、少額の資本金でも特に不便に感じることはありませんでした。
けれども、決算後、資本金が10万円では自分の役員報酬を決める際に判断がしずらかったと感じています。計算上は月10万〜20万円ぐらい役員報酬を引き上げても特に問題はなかったのですが、万一、収益が悪化してしまった際のことを考えると資金がショートしてしまう可能性もあるため、なかなか自分の役員報酬を上げることができませんでした。
その一方、実際に決算を迎えてみるとやはり利益が残って法人税で払う分が多くなってしまい、役員報酬を上げておけばよかったと後悔はするものの、実際に改定時期になるとまた不安がよぎり、なかなか上げることができませんでした。
このようなことを毎年繰り返していましたが、もし資本金を1,000万円程度でも入れておけば、資金がショートする心配はなくなるため、役員報酬を簡単に上げることができたのにと感じております。おそらく、会社に利益が残るか残らないかの赤字ギリギリまで役員報酬を攻めることができたと思うので、法人税で負担する分が軽くなったものと感じています。
ある程度の金額までは法人税で払うよりも個人の所得税で払う税率の方が低いため、会社に利益を残すよりも自分の人件費として計上し、赤字スレスレの状態の方が税金負担が軽くなります。
けれども、手元の資本金が少ない状態だと資金がショートしてしまう可能性があるため、自分の役員報酬をギリギリの線まで攻めることができなくなります。
役員報酬は定期同額のため、1年間は給与の額を変更できない一方で、年間を通しての業績予測はかなり困難なことを考えれば、資金繰りにも遊びの部分が必要ですが、そのクッションの役割を果たすのがこの資本金ではないかと考えております。
社長以外に役員がいない完全な一人会社の場合、資本金の管理がずさんになってしまいがちなため、できるだけ資本金を少な目に設定しておいた方がよいかと思います。
特に個人事業から法人成りした場合、「事業主貸」の感覚が残っているかと思いますので、ついつい会社のお金を役員貸付金などにして社長個人のプライベートで使ってしまいがちです。
個人事業では「事業主」と「個人」は同一のため、事業主貸を返済する必要はありませんが、法人の場合は「会社」と「社長個人」は別物です。会社から借りたお金は利息をつけて返済しなくてはいけません。
他にも役員がいるならともかく、社長一人の会社でお金を引き出そうと思えば、いくらでも引き出せてしまうため、会社から社長個人への貸付金がどんどん膨らんでいく可能性があります。
その貸付金を解消するため、役員報酬を増額したりして返済することになるかと思いますが、役員報酬を増額すれば、社長個人で支払う所得税や住民税が増えますし、特に社会保険料の負担が多くなってしまいます。また、返済するにあたり利息分も支払わなくてはなりません。
加えて、銀行から融資を受ける際にも、役員への貸付金があれば、会社へ融資したお金が社長のプライベートで浪費されてしまうのではないかという疑問が生じてくるため、銀行への印象が悪くなってしまいます。
社長個人のお金を資本金として会社に入れる場合、再度、それを会社から引き出す際には非常に面倒なため、必要以上の資本金は入れず、事業で資金が必要となった際には、その都度、社長個人から会社へ貸し付けする方がシンプルかと思います。
性格的にあればあるだけ使ってしまう社長さんの場合、資本金は少額にしておいた方がよいでしょう。
■法人成り・会社設立
┏
┃法人成りを考えるべきタイミング
┃法人成りの資本金はいくらがいいのか?
┃屋号と商号(会社名)の違い
┃「合同会社」での法人成りがおすすめ
┃法人設立の際の会社印の作成方法
┃合同会社設立登記申請書の書き方
┃定款の作成方法と記載例
┃定款の作成例とテンプレートのサンプル
┃会社設立後の届出書の一覧
┃法人口座の作り方
┃法人向けクレジットカードを比較
┃法人成りした際の給与計算ソフト
┃特別徴収と普通徴収の違い
┃源泉所得税と住民税の納期の特例
┃給与所得控除はサラリーマンの必要経費
┃年収103万円と130万円の壁とは何か?
┃新たに年収106万円の壁が出現か?
┗
■社会保険の加入
┏
┃法人成り後の社会保険の加入について
┃役員のみ一人会社での社会保険の加入
┃役員報酬に対する社会保険料の負担割合
┃役員が社会保険に加入できる最低給与
┃扶養控除を外れない役員報酬の決め方
┃70歳以降も雇用する際の厚生年金の手続き
┃社会保険の新規適用調査に行ってきました
┗
■法人決算・年末調整
┏
┃法人決算と個人事業の決算の違い
┃法人で納める税金の種類
┃法人税の電子申告(e-Tax)の手順
┃法人住民税や事業税はeLTAXから申告
┃営業利益や経常利益、税引前利益の違い
┃赤字決算で欠損金を繰り越すメリット
┃役員報酬は定期同額給与がポイント
┃役員貸付金の利率が下がってきた!
┃年末調整のやり方と法定調書の提出
┃2016年の年末調整からマイナンバーが必要
┃源泉徴収票の税額に誤りがあった場合
┗